親知らず
あの、先日親知らずを抜いてきたんですけどね。
まあー、行きつけの歯医者が無愛想で。
舌打ち舌打ちで。舌打ち、ため息、舌打ちで。
あれ?これボイパかな?ビートをきざむ系おじさん登場かな?
と最初の頃は好意的に解釈していたものですが、
なにしろ完全に目が死んでるから、これは純粋なる舌打ちで。
あんな死んだ目でボイスパーカッションを奏でる人間はいない。
リズムはおろか一切何にも乗ってない。調子とかにも乗ってない。
地に足ついてる系おじさんで。
まあ腕は確かなもんだから通ってるんですけど。
そのおじさん先生が今度親知らずを抜こうと思ってるとかなんとか
もごもご言うので、こりゃ抜く事になるんだろうなー、やだなー、怖いなーと思いつつ
とはいえ長いこと放置し続けた口内ものっぴきならない事になってまして、
そりゃ歯医者だったら舌打ちしたくもなるだろうというくらいの惨状なので
怖がっててもしょうがない。やるしかねえ。
と、もう山ほど舌打ちを浴びる覚悟で診察台に上がったんですが、
実際施術を始めたらなんか、舌打ちじゃない、変な音がおじさん先生からし始めまして。
ぐふしゅう。むぐっ。つぇあいっ!ぬふぅ。
つって。
ああ、あれかな?これがボイパかな?って。まあ、さすがに思わない。
エキセントリックなサウンドがドロップしてまして。
えー?なになにー?これ大丈夫?
自分は麻酔が効いてて痛みは無いんですけど、
なんか、強盗がシャッターこじ開けるときに使うみたいな器具(通称:バールのようなもの)
が口の中でゴリゴリいってんなー、と思って。
まあ、それずーっとやってて。
いったん止めて。
え?止めんの?
止めるとかあんの?歯医者の治療で。
いま口の中どうなってんのか超不安なんですけど!
つってハラハラして様子をうかがってたら、おじさん先生がちーさい声で
「もう握力ないよ・・・」って言ってました。
弱音!
その後、何度か挑戦を繰り返し、
ようやく親知らずは抜けたんですが、(本体より根っこが立派な奇行種だった)
最後に息も絶え絶えで状況の説明をしてくれたおじさん先生は、
さながらヒーローインタビューみたいな様子になってました。
はぁー、まあね。今回は、非常にそのー、なかなか?抜けませんでしたけども。
まあー。上の歯でね、こんなに、抜けないっていうのは、まあー、初めてで。
でもまあ、ちょっとね、時間はかかりましたけども、
ともかく、今回、抜けましたんで、ええ、まあー、次にね、繋げていきたいと思います。
みたいな。ちょっとした達成感みたいのが漂ってて。
なんだろ、けっこう点決めたのかな?いい顔してるよね。
MVPの清々しさというかね。そういうやったった感あった。
まあ、とかくどんなに無愛想な人でも、運動した後は饒舌になるものだよなと。
妙に感心しました。
あとやっぱりあんたほんとは良い先生なんだろ。
まあ、その後熱でましたけど。