ことなかれ

あたりさわりのない日々の記録

ドングリ不作話

今年はドングリが不作でね。

いいドングリが全然取れなくて。

そうすると熊がね、里に下りてくるってわけで、

今年は熊の被害が多いんですよ。

腹を空かせた熊たちは気が立ってるから危険でね。

昔はそら猟師が撃ったもんだけど、

最近じゃ猟師の数もめっきり減って。

まあ跡継ぎがいないからね。

そりゃそうだ、いまどきマタギになろうなんて若いやつはいなわな。

だいたいこのマタギっていうのもあれだ、

もとは満州引き上げ組だ。そら鉄砲も撃てるがね、

こっちじゃ農業できなきゃ生きていけないよ。

そもそも当時は開墾すればそれが自分の土地って時代だ。

その腕があったやつは今じゃ地主さ。

だがそうじゃないやつらも当然いたわけだ。

彼らは自分たちの村を作った。満州組だけの村さ。

今でもここいらにはいくつかあるよ。

農業ができないものたちは生きるために銃を持って山に入ったってわけさ。

まあ、うちのばあさんも満州引き上げ組だがね、

うちのは地主の娘で、まあ良いとこの子だからなんにもできないよ。

あの人に満州の話したってだめさ。なんも苦労してないんだから。

向こうじゃ書記をやっててね、まあ今でいうOLみたいなもんで、

同じく金持ちの中国の娘と一緒に働いてたんだが、この娘ってのが、

というあたりまで黙って聞いてたんですけど、

あ、この話終わらないな。と思って。

上げたままだった箸を動かして、

宙に浮いていたご飯を食べてやることにしました。

やあ、ちょっと前に東北に旅行に行きまして、

築70年という古い民宿に泊まったんですけど、

ここが結構いい雰囲気で、ご飯もおいしくて。

こいつは当たりだな。と思ったんですけど、

なんか食事中、主人の話が永久に止まらないシステムを導入してるっぽくて。

仕方なくちょびちょび食べながらふんふん言ってたんですけど、

結局食べ終わっても「今の熊には全部センサーがついている」という

新しいトピックが登場する始末で、このタイミングで新しい話題はキツい!と思って、

強引にごちそうさまをすることになりました。

でもいろいろ良い話を聞けたな。

まあそのあいだずっと僕の頭にあったのは

ぎょうざの満州」ってすげー名前!

ってことなんですけど、

さすがにぎょうざの話題を差し込む隙間がなかったのであきらめました。

あと網戸の蛾をカエルがものすごい勢いで食ってて、

あれがなければもうちょっとご飯がおいしかったと思います。

また行きたい。