ことなかれ

あたりさわりのない日々の記録

猫来たる

会社帰り。ちょっとした傷心を抱えてとぼとぼ歩いていると、

猫が足下に絡み付いて来た。

ここいらの主で、いつもアパートの前に陣取っているメスのトラ柄だ。

ちょっと気を許して頭をなでてやるとニャーニャーいって膝に乗ってくる。

なんだなんだ。

いつもはもっとドライな感じじゃないか。

仕方が無いのでしばらく愛でていたのだけれど

膝の上で完全にくつろぎ始めたので

仕方なく立ち上がって歩き出す。

しかしトラ柄は飽くなき心でととととっと追い越しては再び足下に絡み付く。

や。先に進ませない作戦か。

いまいち振り切れないまま、なでては進み、なでては進みしているうちに

遂に家の前まで来てしまった。来てしまったものはしょうがない。

じっと見つめるトラ柄に、じゃあねと別れを告げてドアを閉め、

靴を脱いでいると、また膝の上に猫が乗ってくる。

おいおい。

部屋に上がってくるとは図々しい奴だなあ。

まったく無防備にもほどがある。

もし僕が猟奇的殺人者だったらただじゃ済まないところだぞ。

まぁ幸いにも僕は猟奇的殺人者ではないし、エサもあげるけれども。

それ食べたら帰りなさいよ。

と言って洗濯物を取り込んだりシャワーを浴びたり、

普段の通りの寝支度を進める。

そのあいだ雑にエサを食べ終えたトラ柄は、興味深そうに部屋中の臭いを嗅いだり、

ベッドの隙間に潜り込んだりしていたのだけれど、

しばらくすると案の定外に出たがったのでドアを開けてやる。

今度こそじゃあね。と言ってドアを閉めようとすると

再びサッと部屋に入ってニャーニャー言う。

なんだよ。

結構長いことその押し問答をやっていたのだけれど、

さすがに疲れてきてしまい、面倒にもなってきたのでそのまま寝てしまうことに。

庭側の網戸を猫が通れる分だけ開けて、

自分はベッドに横になる。

トラ柄はいったんそこから外に出て毛繕いやなんかをしていたのだけれど、

(猫にとって毛繕いは結構重要な儀式らしい)

僕がうとうとし始めた頃に音も無く腹の上に乗って来て、丸くなってしまった。

やれやれ。

まあいいか、たまにはこういう夜があっても。

と、猫をなでながら眠りに落ちる。午前3時50分。

翌日目を覚ますとトラ柄は消えていて、

網戸を開けておく作戦は功を奏したらしいことが理解される。

ただぼんやりした頭の中に昨晩の記憶が蘇るにつれ、

ちょっとマズかったかなあと若干不安に。

ともあれ部屋の中を調べてみても特に荒らされた形跡は無く、

エサを豪快にこぼすものだからあーあーなんて言っていた床のあたりも奇麗に舐めとられていて、

なんならちょっと清潔になったくらいだ。

ふむ。

意外と気の効く奴だったのか。

目的はよく分からないけど。

まぁ野良猫にもたまには甘えたい時があるんだろうと思い。

いや、それは自分の方だったのかもな。と思い直す。

つぎトラ柄に会う時はきっとまたドライな態度なんだろうな。

それもまあ猫の良いところか。

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